土曜日, 6月 06, 2009

イントネーションの重要度

John Wells の English Intonation: An Introduction (Cambridge University Press, 2006) の邦訳『英語のイントネーション』が研究社から出ました。発売当日に、Wells が Facebook で「出た!」と画像付きで、しかも日本語タイトルを何かのIMEを使って頑張って入力して書いていたものに、僕は場違いにも、次のようなことを書き込んでしまいました。


Actually, イントネーション (intonation) is also used in non-technical senses such as difference in pitch, (prosodic) accent, etc....

To be frank, the fact that you need a translatoin for this book, which is writting in such clear, easy English, shows the (low) level of proficiency among Japanese teachers of English. I doubt if they ever need a knowledge of intonation when they cannot read the book in English!

That said, congratulations for your first book to have been translated into another language!


最初の段落は、Wellsの友人で台湾に移り住んだ言語学者が、「音調」ではなくて「イントネーション」なの?という話をしていたので、個人的見解を述べたもの。最後の段落に関しては、音声学の本としては初めてながら、彼が書いたエスペラント語の本などは結構色々な言語に翻訳されているそうで、すみません、見落としてました…といったところです。

問題は、真ん中の段落。今思えば、著者が喜んでいるところに、よくこんなことを書けたなと思うのですが、Wells は冷静に、この話題を自分のブログの記事にしました。
http://phonetic-blog.blogspot.com/2009/06/reading-about-intonation.html
著者としては本が売れれば嬉しいけど、実際のところ確かにそうだよね、という話です。

それで済んだと思っていたら、Jack Windsor Lewis がこの記事を取り上げて、ブログの記事を書いたのです。http://www.yek.me.uk/Blog.html#blog189 中でも、"I’m quite unable to remember any gross or important deviations from normal English patterns on the part of any of my Japanese contacts." と書いているのはとても重要です。

Windsor Lewis には、僕が初めて Summer Course in English Phonetics に参加した1994年に直接教わる機会がありましたが、あの職人的厳しさに思わず身が引き締まったものです。LとRの発音の区別のうち、gl- vs gr- が怪しい(Rの方で唇を丸めて誤魔化している)ことまで指摘されてしまいました。自分では全く気がついていなかったので、参りました、と言うより他にありませんでしたね。(いや、最初はちょっと逆ギレしたかも知れません。)

でも、Wellsの記事に登場した Takehiko Makino が、あの時教えた僕のことだということは、さすがに覚えていないでしょうね…。

イントネーションの重要度に関しては、IATEFL (International Association of Teachers of English as a Foreign Language) の Pronunciation SIG のメーリングリストで、Jonathan Marks (English Pronunciation in Use: Elementary の著者)が、議論を沸騰させたくて、次のような命題を投げかけています。
  1. There's no agreement about what the significant features of intonation are, or what purposes they serve.
  2. Intonation is unpredictable.
  3. Intonation is subject to massive variation in different varieties of English.
  4. Learners will pick it up, eventually, if they have enough exposure to English.
  5. It doesn't really matter, and trying to teach it is a waste of time.
  6. Most people, including most teachers, can't recognise intonation patterns - they can't even distinguish between a fall and a rise.
  7. Trying to teach intonation only confuses learners and does more harm than good.
いつも静かなメーリングリストなので、今回も大して議論にはなっていないのですが、これらの命題を全部潰して、「イントネーションは教える価値がある」と結論づけるには、慎重な議論が必要です。余裕があるときにこの雑記帳でも考えられればいいなと思います。もっとも、Windsor Lewis は、先のブログで、"The topic(イントネーションのこと), then, is hugely less important for Japanese speakers than eg mastering the distinction between /l/ and /r/ that often persists even in the performance of Japanese advanced learners." と断じていますけどね。

(2009年7月3日改訂 Thanks to Tami Date)

水曜日, 6月 03, 2009

INTSINTを使える目処が立ったか?

去年の ChoPhoサマースクールに参加して、プロソディーの(音韻表記に対比する意味での)音声表記たる INTSINT のことを知りました。もっとも、INTSINT 自体は、Daniel Hirst & Albert Di Cristo (eds.) Intonation Systems: A Survey of Twenty Languages (Cambridge University Press, 1998) で使われていたので、単に僕が知らなかっただけだったのですが、これを音声ファイルから自動的に生成する momel-intsint というツール(音声分析ソフト Praat のスクリプト)も CorPho では紹介してくれたので、これには大いに期待していました。

 

これを使って日本語話者による英語発音コーパスにおけるプロソディーの記述(中間言語ですから、英語の記述体系も日本語の記述体系も使えないのは当然ですね)の基礎にできるのではないか?と思い、できれば夏以降の学会発表につなげたいと思っていました。しかし、何しろ他の仕事が忙しくて(翻訳書と辞書のダブルパンチです)、ずっと試せずにいました。思い返せば、CorPhoでの実習ではターゲット曲線は出てきたものの、INTSINT の記号列は出て来なかったな…と思い出し、夏に向けて準備するなら当てにして良いのかどうかぐらい試さなければということで、今晩改めて試してみたら、果たして、.int ファイルがないとかいうエラーメッセージが出てスクリプトが途中で止まってしまい、ターゲット曲線はできたものの記号列はできずじまい。あれあれ、これは困ったな…ということになってしまいました。

 

しかし、この momel-intsint には yahoogroups を利用したメーリングリストがあるのです。これに早速登録して、スクリプトが途中で止まってしまうんだけど、という投稿をしました。

 

すると、ほとんどそれに呼応するかのようにモデレーターの Daniel Hirst 氏から投稿があり、一昨年ザールブリュッケンのICPhSで発表した新しいアルゴリズムに基づいたプラグインをグループのファイル置き場に置くから使ってみて下さい、ということでした。

組み込みは、この zipファイルの中にあるプラグインフォルダを丸ごと、自分のユーザーフォルダの中の Praat フォルダにコピーするだけなのですが、Windowsでフォルダをコピー&ペーストしようとしても、(Macで圧縮してあるせいなのか)サブフォルダと同じ名前で容量0のファイルがあったりしてうまく行きません。しかし最終的に、TUGZip という圧縮・展開ツールを使ったらうまく行きました。

 

これを使ってみた結果ですが、見事に INTSINT のターゲット列が Praat の TextGrid として生成されました。もちろん、音声波形の然るべき位置に align されています。その生成された記号列をどう扱うかはこれからの問題ですが、ひとまず、プロソディーの記述に明るい光が見えたのでした。

 

しかし、TextGrid を扱うとなると、やはりコーパス構築にはこれをインポートできる ELAN が適しているのかな…。ELAN には Phonのような、発音辞書を使った入力支援がないのが辛いのですが、INTSINT が音声波形に time-align されている以上、time-align という発想がない Phon は合わないのかな…とも思います。しかし、target と actual という tier が予め用意されているというのも Phon がいいと思う部分だからなあ…。分節音だけ Phon で入力してそれをXMLにエクスポートし、更に ELAN にインポートすればいいのかな?分節音は波形に align し直しという感じで(target は何に align すればいいのか分からないけど)。しかし、ELAN を見ると、インポート可能なのは Shoebox, Toolbox, CHAT, Transcriber, CSV, TextGrid となっている。Phon のエクスポートは XML と CSV だから、この CSV がうまくマッチするのかどうかが鍵ですね。


なお momel-intsint のメーリングリストですが、アメリカ版の yahoogroups にあります。URL は http://tech.groups.yahoo.com/group/momel-intsint/ です。

月曜日, 6月 01, 2009

プロバンスで発表へ

アイオワへの応募が採択されず落胆していたのですが、捨てる神あれば拾う神あり。Aix-en-Provence で行われる "PAC Workshop 2009: Models, Variation & Phonological Corpora" の方は採択されました。オーラル発表16件、ポスター発表9件なのですが、ポスターの方に滑り込むことができました。発表タイトルは "Revising the list of weak forms in English using a spoken corpus." で、Buckeye Corpus を利用した記述的研究です。 (ポスターには、ワークショップのテーマからやや外れるが水準が高いものが選ばれたとか。頑張らなければ!)

因みに、25件のうち、フランス以外からの発表者は、ノルウェー1人、イギリス2人、オランダ2人、ドイツ1人、ポーランド1人、日本は僕1人です。ひょっとすると、僕はアジアからの唯一の参加者かも知れません。そうすると、去年のポーランドでの Accents 2008 と似た雰囲気でしょうか。ただ、基本的にいわゆる inner circle の英語が対象なので、non-native English についての発表が大部分だった Accents 2008 とは違って、お互いの発表は理解しやすいでしょう。僕のも、あくまでアメリカ発音に関する研究ですから、日本語の発音から説明する必要はありません。そもそも、ワークショップの趣旨がそういうものだったから僕もこういう内容の応募にしたわけです。

PAC というのは "La Phonologie de l’Anglais Contemporain: usages, variétés et structure" の略です。英語に直すと "The Phonology of Contemporary English: usage, varieties and structure"、日本語では「現代英語の音韻論:使用・変異・構造」とでも言えばいいのでしょうか。僕にとっては結構馴染みのある人が関わっているプロジェクトで、昔友人と音韻論の本を読んだ Jacques Durand と、大学の大先輩である清水あつ子先生が English Phonetics and Phonology (Blackwell, 1999)を翻訳(『英語音声学・音韻論入門』研究社、2002年)した Philip Carr がリーダーです。

場所がプロバンスなので、プロバンス大学に所属の Daniel Hirst に会えるかも知れないというのも、僕にとって期待が膨らむところです。Hirst は INTSINT (International Transcription System for Intonation) を作った人で、これはイントネーションの「音声表記」を謳っている上に、既に音声ファイルを自動ラベリングするツール(momel-intsint)まで出来ているので、プロソディーにどんな表記を使ったらいいのかが大問題である僕の English Read by Japanese 音声データペースを使った日本語話者英語音声コーパス構築にとって、1つの解決策を与えてくれるに違いないんですよね。

いずれにせよ、これでフランスに行くことは確定です。折角だから世界一周チケットを使ってアイオワの会議にも行って更にはカンザスにも寄ってきたいところですが、そうするとほとんど2週間家を空けることになってしまうのが、まだ新婚の身としては辛いところ。迷います。
 
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